野山に自生する野菊(野生菊)のうち、よく目にするものは キク科のシオン属かヨメナ属たちの野菊です。これらの野菊の多くは、花色が白色または淡青紫色で、葉は披針形ないし長楕円形、葉の縁には幾つかの鋸歯があります。今回は一般的な家菊(栽培菊)のイメージに近い~花色は黄色で、葉は羽状に深裂している~野菊を取り上げてみました。これらは分類的にもキク科キク属の正統派に属します。キク属の野菊は、シオン属やヨメナ属の野菊よりも、花期はやや遅くて10-11月頃なので、花が少なくなった時期にも見られる貴重な花たちです。
イソギク(磯菊)。キク科キク属の多年草。関東から東海にかけての海岸、及び伊豆諸島の海岸の岩場などに自生します。花期は10-11月で、舌状花(花びら)のない筒状花だけで、5mmほどの花を茎の先端に密集して咲かせます。葉は楕円形で大きくて丸い鋸歯があり、葉の裏には白い毛が密生しているのが特徴です。ちなみに、図鑑等では「太平洋側の海岸に生息」となっていますが、京都府RDBでも準絶滅危惧種として指定されています。選定理由は「日本海側(丹後地域)での分布は人為的なもの(逸出)とされることがあるが、その根拠は不明で、山口県や島根県にも産地が知られている。ハマナデシコなどと同様に自然分布と考えるのが自然である。学術上の価値が高い」と記されています。京都の日本海側にも自生していたとは初めて知りました。
イソギク(磯菊)。キク科キク属の多年草。関東から東海にかけての海岸、及び伊豆諸島の海岸の岩場などに自生します。花期は10-11月で、舌状花(花びら)のない筒状花だけで、5mmほどの花を茎の先端に密集して咲かせます。葉は楕円形で大きくて丸い鋸歯があり、葉の裏には白い毛が密生しているのが特徴です。ちなみに、図鑑等では「太平洋側の海岸に生息」となっていますが、京都府RDBでも準絶滅危惧種として指定されています。選定理由は「日本海側(丹後地域)での分布は人為的なもの(逸出)とされることがあるが、その根拠は不明で、山口県や島根県にも産地が知られている。ハマナデシコなどと同様に自然分布と考えるのが自然である。学術上の価値が高い」と記されています。京都の日本海側にも自生していたとは初めて知りました。
イソギクは磯(海岸)に自生するのが名前の由来ですから、私たち海から離れた者が普通に見ているイソギクは、野生種ではなくて栽培種ですが、その独特の白い縁取りのある葉は、とても魅力的で美しいです。
でも時々、写真のような舌状花をもつイソギクを見ることがあります。これは ハナイソギク(花磯菊)と云って、イソギクとイエギク(家菊)が自然交配して出来た雑種です。
こちらの写真は、舌状花が非常に小さいハナイソギクです。このように、ハナイソギクの花や葉は、イソギクに近いものからイエギクに近いものまで様々です。
シマカンギク(島寒菊)。キク科キク属の多年草。広く東アジアに分布し、日本では西日本に多く生息しています。花は黄色で、直径2-3cmほどの頭花を散房状につけます。シマカンギクの近畿地方でのRDB状況‥京都府:絶滅危惧Ⅱ類、滋賀県:分布上重要種。
ちなみに園芸種のイエギク(家菊)は、1500年位前に、中国でこのシマカンギクとチョウセンノギクとを交配した植物を改良して作り出されたと云われています。万葉集には菊を詠んだ和歌は全くありませんので、平安時代に中国から日本に渡来したと推測されています。鎌倉時代に、後鳥羽上皇が菊の花を「皇室の家紋」としたことから、春の桜、秋の菊として日本を代表する花となりました。江戸時代に入るとイエギクの改良が盛んに行われ、色々な品種が生み出されました。
シマカンギクの葉は、深緑色で葉柄があり互生します。葉身は卵円形で5つに浅く羽裂し、各裂片には鋸歯があります。シマカンギクは、次のアワコガネギクに大変よく似ていますが、花が一回り大きく、葉の切れ込みが浅い点などが違います。
アワコガネギク(泡黄金菊)。キク科キク属の多年草。広く東アジアに分布し、日本では岩手県以南から九州北部にかけて生息します。命名者は牧野博士で、黄色い花が密集して咲く様子を ”黄金色の泡のようだ” と見立てた名前です。アワコガネギクの別名は キクタニギク(菊谷菊、菊渓菊)と云います。京都東山の菊谷(菊渓)で最初に見つかったのが名前の由来ですが、京都府RDBには「発見地の菊谷では既に絶滅した」と付記されています。
アワコガネギクの花のアップ。花色は濃黄色で、直径1.5cmほどの頭状花序を散状に多数付けます。
アワコガネギクの葉は、有柄で互生し、長さ5-7cm、幅4-6cm、羽状に深く3-5裂し、裂片の先はとがります。
最後に、個人的に気になる点を2つあげておきます。1つは、アワコガネギクとキクタニギクはどちらが標準和名なのか明確でないことです。日本のレッド・データ・ブックでこの菊の指定状況を調べてみますと、”東京・千葉・栃木・長崎の4都県” は「アワコガネギク」としてRDBに登録しています。一方、”環境省 ならびに 岩手・茨城・群馬・埼玉・新潟・長野・京都の、国と7府県” は「キクタニギク」としてRDBに登録しています。このうち、京都府だけが「キクタニギク(アワコガネギク)」とカッコ付きで両方の名前を表示していますが、同一種なら、なんとか和名の表示も統一してもらいたいです。
もう一つの懸念点は、近年、中国や韓国産のアワコガネギクが日本中に蔓延しており、外来侵入種として問題視されています。日本在来のアワコガネギクがRDBに指定されたのは、とりもなおさず外来種の蔓延により、交雑等による「在来種の生存に対する脅威」が急速に悪化したことに他なりません。仮にどこかでアワコガネギク(キクタニギク)を見かけたとしても、これが日本に元々あった在来種のアワコガネギクなのか、外来種のアワコガネギクなのかを見分けるのは至難の業です。これも私たちシロウトには全く手に負えない難しい問題となっています。
でも時々、写真のような舌状花をもつイソギクを見ることがあります。これは ハナイソギク(花磯菊)と云って、イソギクとイエギク(家菊)が自然交配して出来た雑種です。
こちらの写真は、舌状花が非常に小さいハナイソギクです。このように、ハナイソギクの花や葉は、イソギクに近いものからイエギクに近いものまで様々です。
シマカンギク(島寒菊)。キク科キク属の多年草。広く東アジアに分布し、日本では西日本に多く生息しています。花は黄色で、直径2-3cmほどの頭花を散房状につけます。シマカンギクの近畿地方でのRDB状況‥京都府:絶滅危惧Ⅱ類、滋賀県:分布上重要種。
ちなみに園芸種のイエギク(家菊)は、1500年位前に、中国でこのシマカンギクとチョウセンノギクとを交配した植物を改良して作り出されたと云われています。万葉集には菊を詠んだ和歌は全くありませんので、平安時代に中国から日本に渡来したと推測されています。鎌倉時代に、後鳥羽上皇が菊の花を「皇室の家紋」としたことから、春の桜、秋の菊として日本を代表する花となりました。江戸時代に入るとイエギクの改良が盛んに行われ、色々な品種が生み出されました。
シマカンギクの葉は、深緑色で葉柄があり互生します。葉身は卵円形で5つに浅く羽裂し、各裂片には鋸歯があります。シマカンギクは、次のアワコガネギクに大変よく似ていますが、花が一回り大きく、葉の切れ込みが浅い点などが違います。
アワコガネギク(泡黄金菊)。キク科キク属の多年草。広く東アジアに分布し、日本では岩手県以南から九州北部にかけて生息します。命名者は牧野博士で、黄色い花が密集して咲く様子を ”黄金色の泡のようだ” と見立てた名前です。アワコガネギクの別名は キクタニギク(菊谷菊、菊渓菊)と云います。京都東山の菊谷(菊渓)で最初に見つかったのが名前の由来ですが、京都府RDBには「発見地の菊谷では既に絶滅した」と付記されています。
アワコガネギクの花のアップ。花色は濃黄色で、直径1.5cmほどの頭状花序を散状に多数付けます。
アワコガネギクの葉は、有柄で互生し、長さ5-7cm、幅4-6cm、羽状に深く3-5裂し、裂片の先はとがります。
最後に、個人的に気になる点を2つあげておきます。1つは、アワコガネギクとキクタニギクはどちらが標準和名なのか明確でないことです。日本のレッド・データ・ブックでこの菊の指定状況を調べてみますと、”東京・千葉・栃木・長崎の4都県” は「アワコガネギク」としてRDBに登録しています。一方、”環境省 ならびに 岩手・茨城・群馬・埼玉・新潟・長野・京都の、国と7府県” は「キクタニギク」としてRDBに登録しています。このうち、京都府だけが「キクタニギク(アワコガネギク)」とカッコ付きで両方の名前を表示していますが、同一種なら、なんとか和名の表示も統一してもらいたいです。
もう一つの懸念点は、近年、中国や韓国産のアワコガネギクが日本中に蔓延しており、外来侵入種として問題視されています。日本在来のアワコガネギクがRDBに指定されたのは、とりもなおさず外来種の蔓延により、交雑等による「在来種の生存に対する脅威」が急速に悪化したことに他なりません。仮にどこかでアワコガネギク(キクタニギク)を見かけたとしても、これが日本に元々あった在来種のアワコガネギクなのか、外来種のアワコガネギクなのかを見分けるのは至難の業です。これも私たちシロウトには全く手に負えない難しい問題となっています。
コメント
コメント一覧 (10)
残念ながら覚えきれそうもないです。
イソギクをここで見るのは不可能でしょうけど、
似た花を見ることがあります。
コメント有難うございます。
イソギクの野生種は一部の地区でしか見られませんが、全国的に栽培種は普及していますので、比較的容易に見られます。
今回のブログでも、シマカンギクやアワコガネギクは野生種を撮りましたが、イソギクはすべて栽培種の撮影です。
コメント有難うございます。
さすがに、イソギクの自生種を見られる場所は少なくて、こればかりは栽培種を撮るしかありませんね。仰るとおり、葉の縁取りがとてもお洒落で、初めてイソギクと出会ったときから惹かれました。どうしても町ではイエギクと交配してしまうケースが多くてハナイソギクが増えているように感じます。
コメント有難うございます。
園芸種の菊は本当に品種が多くて、さっぱり分かりませんね。イソギクは独特の葉なので、これは間違うことはないので大好きです。イソギクの自生種は海岸沿いの人が見られるだけで、私たちは当然栽培種しか見られませんね。タンジーはまだ見たことがなく、出会いたい花の一つです。
コメント有難うございます。
イソギクは、やはり太平洋岸の暖かい所が自生地なんですね。白い縁取りのある葉や、筒状科だけの花は独特の味わいがありますね。貴ブログの「周伊勢湾要素の植物」も、やはり微妙な自然環境の下だけに育つ植物なんですね。私もヘビノボラズは三重県で初めて出会いました。その後、滋賀県の山でも見かけました。
一目でイソギクと断定できるのも嬉しいですね。
イソギクを初めてみたのは、5年くらい前、ブルーボネットという名古屋南部にある公園でした。
自生では無く、植えたものと思いますが。
コメント有難うございます。
イソギクは、仰るように「一目で断定できる」ので、同定に悩むこともありませんので、有難いです。
海から離れた当地などでは栽培種しか目に出来ませんが、愛知県では自生種が見られるそうですから、チャンスがあるかもしれませんね。