11月半ばの某日、あまりの天気の良さにつられて、久しぶりに京都府立植物園を訪ねてみました。「京都に由来する菊など」を見るのが目的でしたが、珍しい花も幾つか見られましたので、これらも取上げてみました。
furitu_syokubutuen01
京都府立植物園(正面の奥)への道。左手の生け垣の反対側は賀茂川です。街路樹もすっかり色付いていました。
京都府立植物園:京都市内北部の平坦地に位置し、日本で最初の公立植物園として、大正13年(1924)1月1日に開園しました。第2次大戦中は園内に菜園が設けられ食糧増産の場となり、戦後は、昭和21年(1946)から12年間連合軍に接収され、GHQ京都司令部の将校家族用住宅地となりました。このとき2万本を超える樹木が伐採され、貴重な山野草が埋め立てられるなど苦難の時代が続きましたが、昭和36年(1961)4月に再開されました。今年(2019)は開園95周年に当たり、年間約90万人の入園者数は日本の公設植物園では最も多く、面積24haの広大な敷地には、約1万2千種類、約12万本の植物が植えられています。
matumurasou01
マツムラソウ(松村草)。イワタバコ科マツムラソウ属の常緑多年草。1属1種で、日本では沖縄県の西表島と石垣島だけに分布します。常緑広葉樹林中の川沿いの水がしたたり落ちるような湿った崖面にまれに生育する超希少種です。茎先に長さ10-50cmになる総状花序をつけ、多数の黄色い花は一方向にだけ向いて付きます。
matumurasou02
花の内部を覗いてみました。花冠は長さ3.5cm、幅1.2cmの筒型で、基部はややくびれて細まり、先は唇形で5裂し、外面に縦のすじが入り腺毛があり、花喉部に赤褐色の斑があります。オシベは4個あり、2個ずつ長さが異なります。メシベは軟毛が密生し、花柱は糸状で花冠より短いです。
matumurasou03
この希少なマツムラソウが府立植物園で見られることは知っていたのですが、仲々見に行くことが出来ずにいました。現地(沖縄)での花期は7-10月とのことですが、植物園での開花は10-11月頃です。
matumurasou04
環境省RDB:絶滅危惧ⅠA類(CR)、沖縄県:絶滅危惧Ⅱ類 となっています。こう云う滅多に見ることの出来ない植物が、屋外で自然の状態で見られるのが植物園の良いところですね。
murasaki01
ムラサキ(紫)。日本原産でムラサキ科ムラサキ属の夏緑性の多年草。丘陵地の草地などに生え、小さな白色の花を枝の先端や葉腋に付けます。花期は夏ですが、11月になっても園内(屋外)で咲いていました。古くは万葉集にも登場し、1200年ほど前から染料や生薬として日本人と密に接してきた有用植物でしたが、明治時代以降は合成染料の登場により商業的価値を失い、種の発芽率が低い上、ウイルスなどに弱いため、株を増やすのが困難で、急激に減少し、昭和37年(1962)に埼玉県で自生が確認されたのを最後に、野生種は絶滅した可能性が高い とのことですが、私はNET上で野生種と出会った記事を見たこともあり、僅かに生き残っているようです。
環境省:絶滅危惧ⅠB類(EN) 、全国38都道府県でRDBに指定されています。近畿地方の状況‥大阪府・兵庫県・和歌山県・三重県:絶滅、京都府:絶滅危惧Ⅰ類、滋賀県:要注目種 となっています。
近年、ムラサキへの関心の高まりもあって、一部業者やマニアの間で販売や譲渡が行われているようですが、これらの殆どが「西洋ムラサキまたはそれが雑種化したもの」で、日本原産種とは違うものだそうです。
yukimi_bana01
ユキミバナ(雪見花)。キツネノマゴ科イセハナビ属の多年草。福井県・滋賀県の2県にだけ自生します。花期は夏の終わりから雪が降る頃まで長く咲きますので、雪の降る頃でも見られるということで、この名前が付けられました。ただ、花付きは悪くて一斉に花を咲かすという感じではなく、ポツポツとまばらに咲いている感じです。花冠は淡紫色で一日花です。2県でのRDB状況は‥福井県:絶滅危惧Ⅱ類、滋賀県:分布上重要種 となっています。
ise_hanabi01
イセハナビ(伊勢花火)。キツネノマゴ科イセハナビ属の低木状の多年草。中国原産で、園芸植物として渡来しましたが、現在では関西や九州では野生化しているとのことです。花期は夏から秋で、枝先に淡紫色の花を付けます。披針形の葉は十字対生しています。和名の「伊勢花火」とは、何か曰くがありそうですが、調べてみても、どこにも和名の由来は見当たらず不明です。
kisewata01
キセワタ(着せ綿)。シソ科メハジキ属の多年草。全国の山地・丘陵地の草地に生えます。茎は直立し、四角形で毛が多く生えていて、高さは50-100cmになります。葉は洋紙質で対生し、卵形または狭卵形で、先端は鋭頭または鋭突頭になり、縁には大型の欠刻状の鋸歯があります。
kisewata02
キセワタの花期は8-10月。花は茎の先端の葉腋に段上に多数集まって、輪散花序になって付きます。花冠は2唇形で、紅紫色をし、上唇は全縁でフード状、下唇は3裂し中央裂片は下方に曲がっています。花冠の上部に白い毛が多くあり、それを「花に着せる綿」に見立てたのが和名の由来です。環境省カテゴリ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)で、全国41都道府県でRDBに登録されています。近畿地方では‥三重県:絶滅、京都府・大阪府・滋賀県:絶滅危惧Ⅰ類、兵庫県:絶滅危惧Ⅱ類 となっています。

★京都由来の菊など
kikutani_giku01
キクタニギク(菊谷菊)。キク科キク属の多年草。本州以南の山地の谷間のやや乾いた崖などに生えます。京都市東山区菊谷川で発見されたのが和名の由来です。発見地の菊谷では既に絶滅となっています。黄色の花が泡のように密に咲くので、別名はアワコガネギク(泡黄金菊)と云いますが、1990年代に、道路の法面緑化のために、中国や韓国から持ち込まれた外来種のアワコガネギクが広く全国に分布し、在来種キクタニギクとの遺伝的攪乱が懸念されています。
kikutani_giku02
花期は10-11月、よく分枝した茎の先端に、直径約1.5cmほどの黄色い頭花を多数つけます。中央には多数の黄色い筒状花が集まり、周囲には黄色の舌状花が一列に並びます。環境省カテゴリ:準絶滅危惧(NT)で、全国11都府県でRDBに指定されています。近畿地方では‥京都府:準絶滅危惧種 となっています。
kibune_giku01
キブネギク(貴船菊)。キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。中国から渡来した帰化種です。キクと名前が付きますが、キクの仲間ではなくアネモネの仲間です。花がキクに似ており、秋に咲くので 別名をシュウメイギク(秋明菊)とも云います。古い時代に京都の貴船地区で野生化したキブネギクが、本来のシュウメイギクです。但し、現在では類似の幾つかの種や、これらの交配種も含めて、総称的にシュウメイギクと呼ばれています。
kibune_giku02
花期は9-11月、高く伸びた花茎の上に大柄な花をつけます。花には花弁はなく萼片です。本来の花色は赤紫色ですが、近年他種との交配品種が市販されるようになり、弁数が少ない品種や白色の品種が多く栽培されてシュウメイギクと呼ばれ、名前の混乱が生じています。
saga_giku01
サガギク(嵯峨菊)。キク科キク属の多年草。嵯峨菊は、京都嵯峨御所と呼ばれた大覚寺境内の大沢池の菊ヶ島に生えていた野菊を嵯峨村の農民が栽培・改良し、嵯峨天皇の御高覧に供したのが始まりと云われています。花期は10-11月で、花は細長い花弁、伸びるにつれて垂れ下がり、その後立ち上がり、茶筅を立てたような姿へと変化します。特に花弁がすべて平行しているのを「立ち上げ」と云って最も好まれます。花色によって、御所の春(ピンク)・御所の秋(黄)・御所の雪(白)・御所錦(朱)と呼ばれます。
nakagawa_nogiku01
ナカガワノギク(那賀川野菊)。キク科キク属の多年草。徳島県の那賀川の渓流添いにだけ生育する日本固有種です。どんな野菊なのか以前から見たいと思っていたのですが、思いもかけず、植物園の清流沿いで咲いていました。花期は10-12月で、舌状花は、白い花が終盤に近付くと、淡紅紫色に変わるそうです。環境省カテゴリ:準絶滅危惧(NT)。徳島県:準絶滅危惧種 です。
oharame_azami01
オハラメアザミ(大原女薊)。キク科アザミ属の多年草で日本固有種。アズマヤマアザミの変種で、京都・大原で発見されたのが名前の由来です。近畿地方北部から北陸地方の山地に生えます。花期は9-12月で、草丈は2m弱、頭花はやや穂状に多数上向きないし斜め上向きに咲き、総苞外片には刺針が殆どないのが特徴です。
kamogawa01
植物園で楽しんだあとは、京都の冬の風物詩、ユリカモメ
(百合鴎)を見ようと賀茂川添いを歩いてみましたが、マガモやダイサギが見られただけでした。正面の山は北山連峰、右手は京都府立植物園です。