この時期に見られた樹木の花や実です。
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コショウノキ(胡椒の木)。ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属の常緑低木。雌雄異株で、和名は、この樹木の果実がコショウ(胡椒)のように非常に辛いことに由来します。花期は1-4月で、花はジンチョウゲと同様に芳香があります。花弁はなく、萼筒は白色の肉質で厚く、先端は4裂し、外面に細い毛が密生します。
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関東以西の温暖な山地の林下に生えます。全国12都府県でRDBに登録されており、近畿地方では‥京都府・大阪府・奈良県・和歌山県:準絶滅危惧種、滋賀県:分布上重要種 となっています。
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ハンノキ(榛の木)の雌花穂。カバノキ科ハンノキ属の落葉樹。全国の山野の低地や湿地、沼などに自生します。雌雄同株、雌雄異花で、花期は冬の12-2月頃。葉に先だって雄花穂と雌花穂をつけます。雌花穂は、楕円形で紅紫色を帯び、各鱗片に2花が付きます。花は殆ど目立ちません。
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ハンノキの長く下垂した雄花穂の枝の基部に雌花穂が付きます。 風媒花なので、この時期は雄花からの花粉飛散量が多く、ハンノキ花粉症のアレルゲンとなっています
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ウグイスカグラ(鶯神楽)。スイカズラ科スイカズラ属の落葉樹。全国の山野に生えます。これは、まだ咲き始めたばかりの一番花でした。花はピンク色、花冠は細い漏斗型で、先は5裂して平開します。
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イスノキ(蚊母樹)の虫こぶ。イスノキの虫こぶ(ゴール)は、アケビの果実のように大きなものから葉の表面にポコポコと出来る小さなものまで色々です。その虫こぶは全て、イスノキにつく害虫イスノフシアブラムシの住み家であり、小さな穴はアブラムシが出た跡です。
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名前はよく知られているものの、今では殆ど目にすることがない柑橘類を2つ。1つめは カラタチ(枳殻、枸橘)の果実。ミカン科カラタチ属の落葉低木。中国原産で、日本には8世紀頃に渡来しました。カラタチの名は唐橘(からたちばな)が詰まったものです。果実は秋から冬に黄色く熟し、大きさは2-3cm 程の小さな実です。
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兎に角 カラタチは 大きな鋭い棘(とげ)が特徴です。このため古代から寺院や屋敷では外敵や害獣から家を守る生垣として重宝されてきましたが、現代ではコンクリートなどの近代的な塀が増え、殆ど見られなくなりました。果実は酸味が強くて生食できませんが、香りが良いので果実酒に使ったり、乾燥させて生薬(健胃薬)として用いられます。
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♪ からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ からたちのとげはいたいよ 靑い靑い針のとげだよ ♪(からたちの花 山田耕筰作曲・北原白秋作詞 )  ♪ 心で好きと 叫んでも 口では言えず ただあの人を‥からたち からたち からたちの花 ♪(からたち日記 島倉千代子・歌)。歌はよく知っていても花や実を見ることは稀ですね。
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2つめの柑橘類は ヤマトタチバナ(大和橘)の果実 です。ミカン科ミカン属の常緑樹。日本原産の柑橘類は、このヤマトタチバナと沖縄のシークワァーサーの2種だけです。果実は小さく直径3cm程で、冬に黄色く熟します。カラタチと同様に、香りは素晴らしいのですが、酸味が強いので生食には不向きで、マーマレードやジュースなどに加工されます。奈良県では植栽が盛んで各地でよく見かけます。別名は日本橘あるいは単に橘と呼ばれます。
第11代・垂仁(すいにん)天皇の命を受けた田道間守(たじまもり)が、不老不死の果実と云われる 非時香菓(ときじくのかくのみ=タチバナの実)を入手するため、海の彼方にある常世の国へ行き、苦難の末に手に入れて持ち帰って来たら、既に垂仁天皇は崩御されており田道間守も後を追って殉死した、と記紀は伝えています。
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奈良・西ノ京にある前方後円墳の形状がはっきりと見て取れるこの古墳は、考古学的には「宝来山古墳」と呼ばれますが、宮内庁により、垂仁天皇・菅原伏見東陵(すがわらのふしみのひがしのみささぎ)と治定されています。
その周濠内に浮かぶ小島(写真中央)は、湟内陪冢(こうないばいちょう=中心となる大型の古墳に埋葬された首長の親族や臣下を埋葬する小型の古墳)で、田道間守の墓 とも云われています。
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参考までに、初夏に咲く ヤマトタチバナの花 です。星型の白くて美しい5弁花を咲かせます。タチバナの花は、昭和12年に制定された 文化勲章のデザイン になっていることでも有名ですね。当初案ではサクラの花でしたが、昭和天皇の意向でタチバナの花に変更・決定されました。後に天皇はこの件について記者から質問を受けられていますが、天皇は意匠制定に関与したことを否定せず「橘の方は常緑樹でもあるし、古事記にも出てくるし、文化と云うのは生命が長くなければならない、と感じたからです」と説明されています。サクラの花は短命で、昔からパッと咲いて潔く散るので「武」を表す意味によく用いられていますが、文化の永久性を表現するには、タチバナは「常緑で常若」「不老不死の果実」と「永遠性の象徴」とも云うべき樹木ですから、まさに昭和天皇の慧眼を物語るエピソードです。