西洋人と日本人との美意識の違いは、ツバキの世界でも同様です。八重咲き・千重咲きなど派手で大輪のツバキを喜ぶ西洋人に対して、日本人は八重咲きよりも一重咲きを、大輪よりもどちらかというと小さな花の椿をより好むようです。その日本人が愛(め)でる小さな椿の代表が 「佗助(ワビスケ)」 ではないでしょうか。ワビスケは昔から「椿と茶の交配から生まれた品種」と云われてきました。椿とお茶との交雑種の葉には必ずお茶の葉の成分であるカフェインやテアニンが含まれていることが現代科学で明らかにされており、改めてワビスケの葉を調べたところ、それらは全く含まれておらず、お茶との交雑種ではなかったことが解明されました。よく知られている ワビスケの定義 を一応記しておきます。①ウラクツバキ(有楽椿)から生まれたものであること(ウラクツバキの子、あるいは子孫)、②葯(やく:雄しべの先端の花粉を作る器官)が退化して花粉を作らないこと。この2つを満たしているものがワビスケと呼ばれています。

Tubaki00

 ワビスケの原点 である 有楽椿(ウラクツバキ) です。関西では有楽椿ですが、関東では太郎冠者とも呼ばれます。ウラクと云う名前は、織田信長の弟である織田有楽斎うらくさい)にちなんでいます。有楽斎がワビスケをことのほか愛していたので URAKU が学名に使われたそうです。この事例だけでも、武士が椿を嫌ったというのは、後世の作り話であることがわかりますね。ちなみに織田有楽斎は、関が原の戦いでは東軍に味方して武功を上げたことにより、家康より江戸の数寄屋橋門外に屋敷を賜りました。有楽斎の屋敷があったことから、この地は後に有楽町と呼ばれましたが、呼び方はウラクチョウではなく、ユウラクチョウとなっっていることは、皆様ご存知の通りです。

 佗助は更に3つのグループに大別されるそうです。①植物学的に伝統のワビスケ系のもの:紅侘助、白侘助、数寄屋、初雁、胡蝶侘助など。②佗助の名前だが植物学的にはワビスケでないもの:赤侘助、黒侘助、一子侘助、紺侘助など。③名前も植物学的にもワビスケではないが、小輪で、葯が退化して花粉が出来ない侘助咲きのもの:天倫寺月光、桜島月光など。

Tubaki401

 上記③に該当するワビスケ、天倫寺月光(テンリンジガッコウ)。

Tubaki403

 紅色大輪の台湾産の 九曲(キュウキョク)。本来は千重咲きですが、これは列弁咲きの珍しい花姿でした。*列弁咲き:花弁の重なりが6つの放射状にならんだり、美しい螺旋状の配列になる咲き方です。

Tubaki404

 それでは椿寿庵さんの第4回目「椿」のご案内です。昨年の未紹介種がまだ200種近く残っているのも整理しきれていないまま、今年撮影の残り65種を先に選んでフォト・アルバムにおさめました。続きはフォト・アルバム 「ツバキ・つばき・椿 ④(2013) をご覧下さい。